今日の出来事

みなさまお元気でしょうか。秋の訪れを感じます。さあ、食欲の秋です。



住み慣れた街、大阪。時刻は夜の7時を少し過ぎたところ。
窓のない三畳一間のアパート。むくむくと起きあがる。この部屋には白黒テレビジョンとコタツしかない。息が詰まりそうだ。
「ぐぅ〜・・・」
「あ〜腹へったなぁ。弁当買うてこうかな。」
昨日はパンの耳しか口にしてなかったから、もうお腹がペコペコだった。くちゃくちゃの一万円札をポケットに突っ込み、そそくさと商店街にある弁当屋に向かう。
夏の夕方にそよぐ心地よい風が、肩までのびた髪の毛を弄ぶ。外はまだ明るいのでなんだか得した気分になる。そうか、これが”すがすがしい”ということか。
アパートから商店街までは歩いて十分の道のり。腹がへっているので自然に急ぎ足になってきた。テクテクテクテク。
「おばはん。ミックスフライ弁当ひとつ」
「ちょっと待っといてね。サービスしとくさかいね」
「おおきに」
5分くらいでミックスフライ弁当ができあがり、お金をはらう。受け取った弁当はご飯が大盛りで蓋からはみ出しそうだ。
「栄養ちゃんととりや」とおばはん。
「ほな」と無愛想な僕。
大急ぎでアパートに戻ろう。そうすればきっとしあわせになれる。帰りの道のりも急ぎ足になっていた。
「はよ食べたい!はよ食べたい!」と口ずさみながら・・・。そしてスキップなんかしてね・・・。

お!前から怖そうなお兄さんがやってくる。
「あんなんに関わったら怖いことになるんやろな。ちょっと目見てしもたかな。いややなぁ。」と思いながら通り過ぎようとすると、胸ぐらをぐいっと捕まれた。
イヤな予感は的中した。
「え?」とそいつをみると僕を睨んでいる。そいつは身長190センチくらいの体格のがっちりしためちゃくちゃ怖そうなやつだ。全身が凍り付いたように動かない。
そいつは大きな声で、「お前!なにメンチきってんねん!おー!」と怒鳴る。まわりの人たちが一斉に振り返る。怖い!めちゃくちゃ怖い!僕の体はガタガタと震えだし、声も出なかった。そいつの怒鳴り声はさらに続く。「なにメンチきってんねん言うてんるんや!おまえしゃべれへんのか!」理解できない。僕はへろへろの小声で、「メンチなんてきってませんやん」というのがやっとだった。誰も助けてはくれない。
そいつは「きった言うてんねん!」と言いながら、僕を雑居ビルの路地裏に連れていった。青みがかった電灯と月明かりが差し込むが薄暗い。かなり奥まったところなので、通りの音も聞こえない。何をされてもわからないだろう。
「ドウゥ!グギッ!」
僕の体は冷たいコンクリートの壁に叩きつけられ、鈍い音をたてた。もう少しで気を失うところだった。楽しみにしていたミックスフライ弁当もそこらじゅうに散乱している。しかし、弁当に気をとられている暇はなかった。
「ドウゥ!!!」腹を思い切り殴られた。
ビチビチビチと音をたてながら、すっぱくて黄色いものが口からあふれ出てきた。
「ドウゥ!!!ドウゥ!!!ドウゥ!!!ドウゥ!!!」殴られ続けた。同時に涙があふれ出て止まらない。
「はれかひれふれ!(誰か来てくれ)」大声で叫んで助けを求めようとしたけれど、全く声が出なかった。腹ばかり殴られて、気が遠くなり、ふにゃふにゃと座り込む。そいつは、これくらいにしておいてやろうと思ったのか、それ以上手を出さなかった。
「あーげぇーげぇー」嘔吐が止まらない。
そいつは、へらへら笑いながら「金もうて帰るで」と言い、立ち去ろうとした。

「へへへ。あほやなあ。殺さなあかんのに。」と僕は心の中で呟いた。僕は力を振り絞り、立ち上がった。「まだまだ力残ってんねんで・・・」足下にあった鉄パイプを手に取った。
「ゴッ!!!!」
立ち去ろうとしているそいつの後ろにそっと回り込み、鉄パイプを振りかざして全力で頭をぶん殴った。ピューと真っ赤な血が勢いよく周囲に飛び散る。不意をつかれて、そいつはおどおどしていたが、やがて鬼のような顔をしてこちらに向かってくる。ふらふらしているので、僕の方が断然優位だ。さらに頭をぶん殴る。「グギィ!ドブゥ!」鈍い音。頭を真っ赤に染めて倒れ込んだ。
「これだけやないで。こんなんですまへんで」
仰向けにして腹をバキバキに殴る。何十回も何百回も・・・。
「ミックスフライ弁当食べられへんやん。ミックスフライ弁当食べられへんやん。ミックスフライ弁当食べられへんやん・・・」
全く動かなくなった。「死んでるんやろか」
僕はそいつの耳の穴に泥水を十分に流し込む。そして、目と鼻と口にも十分なほど砂を流し込んだ。

「おばはん。ミックスフライ弁当ひとつ」


生まれて初めて人を殺した。